スペシャルインタビュー

幕末の偉人らの教えを胸に、己を律し、他者を思いやる子どもを育てる「鹿児島市立甲南中学校」

近年、鹿児島市はJR「鹿児島中央」駅周辺や市交通局跡地で再開発が進められ、急速に発展を遂げている。一方で、ここは西郷隆盛や大久保利通など幕末から明治維新の頃に活躍した偉人を輩出した地。今回は、歴史とも深く関わる同地にある「鹿児島市立甲南中学校」の岩越校長先生と福教頭先生に同校の教育方針や特徴的な取り組み、地域との関わりなどお話を伺った。

「鹿児島市立甲南中学校」 岩越 校長先生(左)、福 教頭先生(右)
「鹿児島市立甲南中学校」 岩越 校長先生(左)、福 教頭先生(右)

他者も認め、尊重できる子を育てる

――甲南中学校は長い歴史をもつ学校だと伺っています。

岩越校長先生:本校は、1945年(昭和22年)6月にその前身となる「鹿児島市立第六中学校」が創設され、次年度の1946年(昭和23年)4月に第六中学校から分離するかたちで「鹿児島市立第七中学校」に、そして1947年(昭和24年)3月に新校舎が落成し、同年4月に現在の「鹿児島市立甲南中学校」と改称しました。甲南中学校としては、今年(令和3年)で創立74年です。

――学校の教育方針、育成目標についても教えてください。

岩越校長先生:本校では校訓に「自主・共同・創造」、教育目標に「向学の意気に燃え、確かな学びの中で自学自立できる、心身共に健やかな生徒の育成」を掲げています。今、教育界では「主体的で、対話的な深い学び」が重要視されているわけですが、本校の校訓、教育目標はまさにそれを表したものではないかと思うのです。自分はもちろん、他者の良きところも認め、尊重する。そして、互いに協力しながら、それぞれの夢や可能性に向かって意欲的に挑戦する。そのような、一人ひとりの自己実現を支援できるような学校・学年・学級づくりを目指しています。

市街地の中にある「鹿児島市立甲南中学校」
市街地の中にある「鹿児島市立甲南中学校」

生きるとは、を伝えるキャリア教育

――キャリア教育にも力を入れていると伺いました。

岩越校長先生:キャリア教育はまさに「生き方教育」だと思うのです。そこで、本校ではまず1年生では「職業人に学ぶ」ということでアナウンサーや警察官などをお招きし、その職業がどのようなもので、なぜ目指したのかなどを伺い、子どもたちには働くことに興味を持ってもらう。次に、2年生では「進路学習」としてヤングハローワークから講師をお招きし、その職業に就くにはどのように歩めばいいのか具体的な道筋を学ぶ。最後は、3年生の「職場体験」で実際に働いてみて現場や、そこで働く人の背中を知る。このように段階的に、働くとは、生きるとはなにかを伝える教育をしています。ただ、今年は新型コロナウイルス蔓延防止の影響で職場体験は実施できませんでした。

――キャリア教育を行う必要性についてお聞かせください。

福教頭先生:職業にはそれぞれ役目があり、どれもこの世の中には必要なものです。これは本校が校訓に掲げる「共同」にも通じる部分で、社会はこうした働く人々の助け合いで成り立っています。自分の利益だけでなく、相手のためにも何かするという「共同の精神」を体験を通して学ぶ。また、働くことは大変だけれどもそこにはやりがいがあり、誇りをもって取り組まれている人がいる。そうした生き方、職業感を肌で感じることが、思春期の子どもに必要だと思います。

校内にある「甲南美術館」
校内にある「甲南美術館」

絵本の読み聞かせで読書の原点に戻る

――そのほか特色ある活動があれば教えてください。

岩越校長先生:私が本校に赴任して、とくに驚いたのが「絵本の読み聞かせ」でした。朝の時間に地域の読書ボランティアグループの方がいらして、中学生に絵本を読むわけです。子どもたちは机ではなく、幼・保育園のようにボランティアの方の周りに集まり、床に座ってお話に耳を傾けます。このような活動をしている学校はこれまでに見たことがなく、おそらく本校ならではではないかと思います。

――なぜ中学生に絵本の読み聞かせなのですか?

岩越校長先生:朝に読書の時間を設けている学校は珍しくありません。ただ、そこでは真剣に本を読む子もいれば、その時間が苦痛で読めない子もいます。でも、絵本は簡単な内容、かつ短いお話です。それも、読み聞かせなので本が好きとか、苦手とかの差はありません。また、読書のきっかけは、親からの絵本の読み聞かせですので、原点に戻るという意味もあります。面白いもので子どもたちの食いつきもよく、これをきっかけに読書習慣が広がればと期待しています。

子どもたちの読書習慣の定着化を期待する校長先生
子どもたちの読書習慣の定着化を期待する校長先生

小・中学校、さらに高校とも密に連携

――校区内や周辺の教育環境をお聞かせください。

岩越校長先生:校区には「鹿児島市立中洲小学校」と「鹿児島市立荒田小学校」、そして本校の隣には進学校の「鹿児島県立甲南高校」があります。また、すぐ側には「国立大学法人鹿児島大学」や「学校法人志學館学園 鹿児島女子短期大学」など、ここは教育機関が密集している地域です。

――各校との連携も密にされていたりしますか?

岩越校長先生:本校と中洲小学校、荒田小学校、そして甲南高校の4校ではPTA含め、連携し活動しています。例えば、各小学校のコミュニティや愛護会に参加したり、高校から在校生を招いて先輩の話を聞いたりなどです。また、ときには大学とも情報共有などで連携することもあります。

――高校、さらに大学との連携は珍しいのでは?

岩越校長先生:どこも近隣の学校ですので、その意味ではまったくの無関係ではありません。小学校にはこれから本校に入学する子どもたちがおりますし、高校や大学には本校の子どもたちが進学しています。そう考えると、今から密に連携を取ることは重要だと考えています。

美術の作品などが展示されている「三方限文化ホール」
美術の作品などが展示されている「三方限文化ホール」

幕末の偉人らの志を、次代に伝える

――地域との関わりについても教えてください。

岩越校長先生:この地域はかつて島津藩(薩摩藩の別名。現在の鹿児島県鹿児島市)の下級武士らが生活した城下町です。また、西郷隆盛や大久保利通など幕末から明治維新にかけて活躍した偉人らを数多く輩出した地域でもあります。校庭の端には彼らの功績を称えて1935年(昭和10年)に建てられた「三方限出身名士顕彰碑」も残されており、ここは今なお歴史が色濃く残る場所です。

福教頭先生:そして、毎年8月10日には石碑前で慰霊祭が執り行われるので、本校も参加しています。神主に祝詞をあげていただいたり、地域の代表者が宣言を読み上げたり。コロナ以前は演舞もありました。これは偉人らの志を、次世代の子どもたちにも受け継ごうとする取り組みです。

「
三方限出身名士顕彰碑」
「 三方限出身名士顕彰碑」

――そのほかに実践したいと考えていることはありますか?

岩越校長先生:地域ボランティア活動を強化したいと考えています。自分にも何かできることがあり、「地域の一員なのだ」という認識を、子どもたちに持たせたいからです。今少しずつではありますが、本校で育てている花を、子どもたちの手で近くの幼稚園に寄付する活動を始めています。

福教頭先生:学校は「社会の縮図」と言えます。代表として生徒会はありますが、同時に子どもたち一人ひとりが「学校の顔」でもあるわけです。自分たちが社会を担っている、という意識をもって校内でも地域でも行動し、より良い環境づくりに貢献する活動ができたらと思います。

市内の地図を前に。地域ボランティア活動の強化を検討
市内の地図を前に。地域ボランティア活動の強化を検討

歴史と近代が共存する街「鹿児島」

――この地域ならではの魅力を教えてください。

岩越校長先生:校区の周りには鹿児島市電が通っていますし、JR「鹿児島中央」駅にも徒歩圏内です。車がなくとも市内は市電で、市外や県外には電車で、どこにでも出かけられます。また、「いまきいれ総合病院」や「キラメキテラスヘルスケアホスピタル」、「鹿児島市立病院」などの医療機関、「アミュプラザ鹿児島」や「Li-Ka1920」など商業施設も充実しており、住環境の整った地域です。

城山公園から望む桜島
城山公園から望む桜島

――この地域でとくに好きなスポットはどこですか?

岩越校長先生:桜島です。天候が良ければ、本校からも桜島を望むことができます。県外に出張したあと、「鹿児島に帰ってきたなぁ」とほっとするのは、やっぱり桜島の顔が目に入ったときですね。

福教頭先生 「鶴丸城(鹿児島城の別名)」周辺の風景ですかね。毎日、通勤時に通りますが、春には城内の桜、夏にはお堀のハスの花が美しく咲くので毎年、楽しみにしています。

岩越 校長先生(左)、福 教頭先生(右)
岩越 校長先生(左)、福 教頭先生(右)

鹿児島市立甲南中学校

岩越 校長先生(左)、福 教頭先生(右)
所在地:鹿児島市高麗町36-32
電話番号:099-254-9155
URL:https://www.keinet.com/kounanc/
※この情報は2021(令和3)年12月時点のものです。

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